研究

精力的に関連領域の基礎・臨床研究に取り組んでいます。基本的に、基礎研究であっても、自前での研究と学位論文への結実を実行しています。特に精力的に取組んでいる領域を下記に示します。

脳腸相関の基礎と臨床
腸内細菌と炎症性腸疾患、消化器癌の病態治療の基礎と臨床
消化器癌とゲノム医学の基礎と臨床
肝腫瘍画像診断の基礎と臨床
鉄代謝と血液疾患の基礎と臨床
糖尿病腎症の基礎と臨床
低酸素応答性転写因子(HIF)の基礎と臨床

脳腸相関の基礎と臨床

過敏性腸症候群や機能性ディスペプシアなどの機能性消化管疾患は内科外来では最も頻繁に遭遇する疾患ですが、必ずしも適切に診療できていません、これは検査をしても目に見える異常がなく、その病態の理解が十分ではないからです。私たちは現時点では目に見える異常のない機能性消化管疾患の病態と治療に関する臨床的基礎的研究を行っています。奥村は2020年に改定された過敏性腸症候群のガイドラインの作成に副委員長として参加し、この領域の臨床・研究に重きを置いています。この疾患群の理解には脳腸相関の概念が非常に重要で、我々の教室では、これまで30年間、中枢神経系がどのように胃腸機能調節に関与するのかを研究してきました。図は我々の研究室でこれまで行ってきた脳腸相関に関する論文の一覧です。様々な分子が胃腸機能の調節に関与する事を報告してきましたが、この20年あまりは 神経ペプチド オレキシンが中枢神経系に作用して胃酸分泌、消化管運動、内臓知覚などに重要な役割を果たす事を見いだし、脳内オレキシン シグナルの低下が機能性消化管障害の病態を形成するのではないかとの仮説をたて検証中です。最近は腸管透過性亢進(leaky gut)が中枢制御を受けることも世界で初めて明らかにし(Okumura et al., Neurosci Lett 2020)、更に、このleaky gut改善により脳内オレキシンによる敗血症死の阻止作用も明らかにできました(Igarashi et al., Biochem Pharmacol 2020)。“腸が元気だとICUから生還できる”との臨床現場の声がありますが、まさに実験結果が示しています。脳腸相関の研究を加速し、過敏性腸症候群などの目に見える異常のない機能性消化管疾患の病態解明に立脚した新たな治療法の確立と、leaky gutが関与する過敏性腸症候群、敗血症、パーキンソン病、認知症などの病態解明と新たな治療戦略を目指します。

肝腫瘍画像診断の基礎と臨床

1.基礎

肝腫瘍における造影3D超音波の臨床応用:キヤノンメディカルシステムズと共同で造影3D超音波の新規撮像法の研究開発を行っており、肝癌の精密病態診断における有用性が確認されております(図)。

2.臨床

①原発性肝癌:肝細胞癌の内科的治療を中心に行い、基本的に総合画像診断に基づき治療を選択することで、安定した成績が得られております。当科ではラジオ波焼灼療法、肝動脈化学塞栓療法、肝動注療法、分子標的治療、免疫療法などあらゆる内科的治療を行っておりますが、これらの治療法に限らず、外科や放射線科と連携し集学的治療を実践しております。
② 門脈圧亢進症:門脈圧亢進症に伴った食道胃静脈瘤や肝性脳症は、超音波内視鏡と3DCTを用いた血行動態診断を行い、治療方針を決定しております。当科では内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS)やバルーン閉塞下逆行性静脈瘤塞栓術(B-RTO)の他、薬物治療なども行っております。
③ 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH):患者さんの病態に応じて、抗酸化剤(ビタミンE)、インスリン抵抗性改善薬、アンギオテンシン変換酵素阻害剤(ARB)などの薬物による集学的治療を行っております。
④胆膵疾患の超音波内視鏡や内視鏡的逆行性膵胆管造影の手技を用いた専門性の高い検査を行っており、診断能の向上に努めております。胆膵悪性疾患による閉塞性黄疸や十二指腸狭窄に対する内視鏡的な胆道ステント留置術や十二指腸ステント留置術のほか、胆道結石や慢性膵炎に対する内視鏡的治療も行っております。化学療法に関しては、切除不能進行膵癌に対する多剤併用療法(FOLFIRINOX, gemcitabine + nab-paclitaxel)や胆道癌に対する併用療法(gemcitabine + cisplatin)も開発されてきており当科でも積極的に導入しております。

糖尿病腎症の基礎と臨床

1.基礎:糖尿病腎症Fast progressor:胎内栄養環境説

糖尿病腎症では、加齢現象を超えて糸球体濾過が低下する症例Fast progressorが存在します。飽食の現代、母体過栄養に起因する糸球体数減少を伴った子が、成人期に糖尿病発症とともに発生する糸球体過剰濾過による糸球体高血圧、そして糸球体硬化を引き起こす結果、進行性に腎機能低下を示す「胎内栄養環境によるFast progressor説」を仮説として提唱いたしました。胎内栄養環境モデルマウスを作成し、その病態機序と治療標的について、播磨化学公園都市にある大型放射光施設SPring-8での放射光を用い、糸球体について3次元的定量評価、また病態候補分子のepigenetic modificationについて、それぞれ、九州大学、名古屋工業大学、公財)高輝度光科学研究センター、金沢大学、旭川医科大学病理学講座腫瘍病理分野と共同研究をおこなっております。

2.臨床: MRI拡散強調画像法を用いた糖尿病腎症診断法の開発

糖尿病腎症における腎障害の評価は、尿アルブミン、eGFRなどの生化学的検査で行われており、確診的情報量に富む腎生検法は、その煩雑さと侵襲性から施行症例は稀少です。そこで、我々はMRI拡散強調画像において、組織変性を反映すると言われているApparent diffusion coefficient(ADC)値と臨床指標との相関を検討することにより、糖尿病腎症画像診断法としてのMRI拡散強調画像法を開発し、旭川医科大学 腎臓内科、循環器内科、放射線科とともに臨床研究を行い、臨床応用へと検討をすすめております。

低酸素応答性転写因子(HIF)の基礎と臨床

HIF-3αによる生体機能調節機構の解明

低酸素誘導性転写因子は、嫌気的エネルギー産生、血管新生、造血などの反応を転写レベルで制御し、生体の低酸素適応に最も重要な役割を果たす転写因子として同定されました。HIF ファミリーの中で、特にHIF-1αは研究が進んでおり、腎性貧血、固形癌、虚血性疾患など低酸素が関与する疾患・病態の成立に関わることが示されています。2019年には、HIF-1αの発見およびその分子制御機構を解明したGregg L. Semenzaらが、ノーベル医学生理学賞を受賞し、同年HIFの分解を抑制することで腎性貧血を改善するHIFプロリン水酸化酵素阻害薬が本邦でも発売されるなど、非常に注目を集めている分野です。我々はHIFファミリーのHIF-3αに注目し研究を行っております。HIF-3αは低酸素環境下で誘導されるにもかかわらず、HIF-1αおよびHIF-2αの働きを抑制することが報告されていますが、多様なスプライシングバリアントを持ち、発現量も少ないため生体内における働きは現在も不明な部分が多く残されています。このHIF-3αノックアウトマウスでは、肺動脈の筋性動脈化、肺血管内皮細胞でのエンドセリン1産生の亢進など、ヒト肺動脈性肺高血圧症に類似した形質を示す事が報告されております。そこで、我々は、レンチウイルスベクターを用いて、Tag修飾したHIF-3α過剰発現細胞株を樹立し、蛋白レベルでの確実なHIF-3αの発現を可能にしました。現在、in vitroでのHIF-3αの働き、新規標的遺伝子の解析を進めています。更に現在、ゲノム編集でHIF-3αKOマウスを作成し、肺循環、炎症制御に関わる遺伝子発現制御とともに肺動脈性高血圧症の病態形成におけるHIF-3αの役割を解明する事に取り組んでいます。

旭川医科大学 内科学講座

病態代謝・消化器・血液腫瘍制御
内科学分野

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